1. 3Dモデルデータを作成する
3Dプリンティングにおいては、まず出力するための3Dデータが必要です。3Dデータを作成するために3DCADソフトを用いてモデリングをします。モデリングは大別すると3種類ありそれぞれに特徴があります。
・ ポリゴンモデリング
面及び立体を構成する頂点を定義していくモデリングです。
フィギュア制作など自由な形状を作成しやすい。
(例 Blender)
・サーフェスモデリング
厚みの無い面を定義していくモデリングです。
家電の筐体や自動車のボディなど、自由曲面が多い形状を作成しやすい。
(例 Rhinoceros)
・ソリッドモデリング
中身の詰まった立体を定義していくモデリングです。
メカ設計など複数のパーツからなるモデルデータの作成しやすい。
質量や体積の計算が可能で実物に近いシミュレーションも可能。
(例 Fusion360, SolidWorks)
これらのどの方法でも3Dプリンタで出力するためのモデルを制作することができます。また、これらの手法を1つの3DCADソフト内で組み合わせて形状を作成していくこともあります。ただし、1と2のモデリング方法では面や頂点を定義して形状を作っていくので、現実に存在することができない形状もデータとして成り立ってしまいます。
例えばポリゴンモデリングでコップを作ってみるとします。
一見すると普通のコップに見えます。
しかし、よく見るとコップの底と壁には厚みがありません。ソフトウェア上ではコップのように見えますが、実在しない形状です。『閉じられていないモデル』と呼ばれることがあります。こうなると3Dプリンタでは出力することはできません。
正しくは以下のように厚みを与える必要があります。
このように、ポリゴンモデリングとサーフェスモデリングでは厚みの無い形状でもデータとして成り立つので注意が必要です。
一方でソリッドモデリングでは作成した形状には必ず体積があるので、実在しないような形状になることはありません。すべて『閉じられたモデル』というわけです。
だからといって3Dプリントするにはソリッドモデリングでないといけないということはありません。形状の作り方に違いがあるだけです。(言い換えると作りたい形状によってはモデリング方法を使い分けていく必要があり、3Dプリントに使うデータを作る際には上記のようなことを念頭においておけば何も問題はありません。)
さて、これらとは別にモデリングの進め方として、パラメトリックモデリングという手法があります。これはモデリングの種類というよりは設計思想に近いものです。
例えば、上述のようにコップを作成する際にはコップの高さ、壁の厚さ、飲み口の直径、底の直径など、1度3Dプリントしてみて実際に手に取ってみて、これらの寸法を調整したり、一度に複数のパターンの形状を3Dプリントして検討したりすることがあるでしょう。
コップのような簡単な形状の場合はいくつもモデリングすれば済むかもしれませんが、これが複雑な形状になってくると、検討したい箇所の寸法やパーツが多くなり、それぞれ手作業でモデリングをするのは大変な作業になってしまいます。
そこで、あらかじめ検討したい寸法やパーツの個数などを決めて、それらの値を後から変更していくことで多くのパターンのモデルを容易に作成することをできるようにするのがパラメトリックモデリングです。このパラメトリックモデリングにおいて現在様々な分野で使用されているのがRhinocerosとGrasshopperです。
下の画像はファンの形状をRhinocerosとGrasshopperを用いてパラメトリックモデリングで生成した様子です。ファンの直径や羽の枚数、形状などをスライダーを動かすだけで変更できます。
grasshopperではノードを用いてプログラミングを行います。アルゴリズムで形状を作成していくのでアルゴリズム内の変数をスライダーを使って変更することで形状を自由自在に操ることができます。
2. 3Dモデルデータを3Dプリント用に変換する
現在、3Dプリント用のデータとしてもっとも一般的な形式がSTLとOBJ形式です。
基本的に3Dプリンタで出力する際はこのどちらかの形式のデータがあれば出力できないということは無いでしょう。
3Dモデリングソフトでデータを作っている際、そのデータはソフトウェア独自の形式です。例えばblenderですと.blendファイルです。Rhinocerosだと.3dmファイルです。
これらのデータも3Dデータなのですが、3Dプリント用にデータを変換する必要があります。これはほとんどのモデリングソフト内で可能です。例えばblenderでモデルデータを作っている場合はblender内からSTLまたはOBJに変換して書き出すことができます。
STLとOBJではどんな違いがあるのでしょうか?
・STL:ポリゴンメッシュ(三角)、色情報なし
・OBJ:ポリゴンメッシュ(四角)、色情報あり
OBJファイルは3Dプリントだけでなく、3DCGの業界でもよく使われているのでモデルに色情報持たせることができますが、ほとんど場合3Dプリントする素材の色は3Dプリンタで使う素材に依存するのでフルカラー出力が可能な特殊な3Dプリンタを使う場合を除くと色情報は必要ありません。なのでほとんどの場合STLにしておけば問題ありません。
また、どちらの形式もポリゴンメッシュ形式となります。これはどういうことかというと、形状はすべて頂点により定義されているということです。
球体のモデルをFusion360で作成してみましょう。
球体の表面はツルッとしています。これは完全な球体であり、ポリゴンメッシュではありません。それではSTLにしてみます。
一見綺麗な球に見えますが、寄ると3角形の平面だけで構成されていることがわかります。
書き出しの際にこのメッシュをどれだけ細かくするかは設定することができます。もちろん細かくすれば綺麗な球体に近づきますが頂点の情報が増えるのでデータは重くなってしまうので注意が必要です。STLに変換した状態で1度モデルデータを確認しておくのも大切です。
3.プリンタ用の制御ファイルを生成する
3Dプリンタはモデルデータだけで動かすことはできません。
モデリングソフトから書き出したSTLまたはOBJファイルを使って3Dプリンタを制御するためのファイルを生成する必要があります。このプリンタ用のソフトウェアは一般的にスライサーと呼ばれます。AMでは材料を積層して造形していくので、スライサーを使ってモデルデータを文字通りスライスする必要があります。
このスライサーの設定が最終的に3Dプリンタから出力される形状を決定します。ソフトによっては膨大な設定項目があります。中でも最も仕上がりに影響するのは材料の積層ピッチです。
FDMプリンタ用のスライサーであるCuraを使ってモデルをスライスしてみましょう。
積層ピッチ0.1mmと0.3mmの比較です。
上から見るとあまり違いがわかりませんが、積層方向に着目すると穴の形が積層ピッチによって大きく影響されているのがわかります。
以上のように3Dモデルデータの作成から3Dプリント出力までは手順があります。
現段階の技術では3Dモデルデータがあればそのままそれが現実の物として出力されるようなことはありません。しかし、AMという造形方法を理解し設計段階からそれを念頭に置いてデータ作成やスライス設定を行うことでより効果的に3Dプリンタを活用できるようになります。